第九章



――言葉を失ってしまった。

それじゃあマスター。君は本当にその左目を、左腕を。


「狂ってる……」


カービィはぽつりと呟いた。

「……なんで?」

先程の様子から一変、クレイジーは冷たく見据える。

「だって、ただの弟でしょ。片目抉って、腕斬り落として、それも全部、自分で」
「ねえ何が言いたいの?」

水を打ったような静けさの中、カービィの声が響いた。


「どうしてそんなことが出来るんだよ」


クレイジーは目を細める。

「この際あんたたちの歪んだ兄弟愛は認めるよ。でもさ、死ぬかもしれないリスク背負ったって“そんなことは無理”なんだよ」

カービィの言う通りだ。

現在判明している医療科学とその技術ではマスターがしたように他者の魂を取り込んで運んだり、その魂を他人に移し替えたりなんて行いは以ての外、人間のカラダを性交渉に触れず作り出そうなんてことは不可能なのだ。

即ち、死んだ人間はもう二度と戻らない。


だけどもし、可能性があるのだとすればそれは。


「前提がおかしいんだって。そもそもそんなこと出来るはずがないのに、作れると踏んで行動に出てる。ただ失うだけの可能性だって」

くすっ。

「……?」

くすくす、くすくすくす。

表情に影を差して窺えないまま、双子の少年二人は怪しく笑い始める……
 
 
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