第九章



ラディス達は呆気にとられていた。

「ふふ、やめてよ兄さん。くすぐったい」

確かにそうだった。クレイジーと名乗った少年の姿は、右目と右腕が欠けているということ以外まるで変わらない。

「……言ったじゃん。兄さんは僕のために沢山のものをくれた、って」

クレイジーはおもむろに視線を返した。

「具体的に何か、ってそりゃあ、沢山だよ。印象的なのは左目と左腕かなぁ」
「っじゃあ」
「慌てるなよ。まんま俺のってわけじゃあない」

食い付くフォックスの言葉をマスターが遮る。

「あははっ僕はそれでもよかったけどね」

……笑えない冗談だな。

「兄さんが自分の体の中で、僕の魂を大切に預かってくれていたって話はもう、皆知ってるだろ。魂の器となるカラダが必要なんだってことも」

クレイジーは左手を自身の胸にそっと乗せた。

「このカラダはね、兄さんが作ってくれたものなんだ」

ラディスは密かに眉を顰める。

「でも、全く新しいものを作るなら未だしも兄さんが目指したのは失ったカラダの再現だった。……例えばさ、玩具にしたって全く同じものを作るのだとすれば同じ部品を使って作るよね。工場なんか見れば分かると思うけど」


――まさか。


「……嘘だろ」

クレイジーはくすっと小さく笑みをこぼす。

「他人を素材に使うのとじゃあ訳が違う。僕たちは双子の兄弟、唯一無二」

そうして彼は誰よりも嬉しそうに。その瞳を狂気に染めて言うのだ。

「兄という最高の素材の下、僕のカラダは完成した。ね、それってとっても素敵なことだと思わない?」
 
 
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