第九章
――幸いなことに、次の扉に辿り着くまでに人間のものらしき頭や腕が保管されているのをこの目に留めることはなかった。
標本だったのかもしれない。或いは、病気をした動物を引き取って死を迎えた後に承諾を得て解体、生き物によって異なる体の働きを研究する為に保存とか。
いやぁ、理科の勉強になったなあ。なんて、ポジティブに考えてみる。
「……着いた、のか?」
最後列のマリオが一番初めに口を開いた。
息の詰まるような沈黙はここでようやく幕を下ろしたのである。
「この扉の奥もまだ続いてるってオチじゃねえだろうな」
「ちょ、やめてよ。こっちは疲れてるんだから」
カービィの言った疲れてる、という発言が疲労ではなく精神的なものを指しているという点は誰も突っ込まなかった辺り、そうだったのだろう。
「……いや」
フォックスは扉を見つめた。
「多分この先だ」
「お前分かるのか?」
「また血の匂いがとか言わないよね」
一見すると最後の扉には相応しくない鉄製の灰色の扉。
「……、」
フォックスは首を横に振った。
「何だろうな。怖いんだ」
「へっ、今更怖じけづいてんのか?」
ファルコはからかうように言って笑う。
「……でも、分かる気がするな」
そうしてまた暫く沈黙した。
真実と向き合う覚悟。嫌な予感がひたすらに渦を巻く。誰もまだ足りない、けれど励まし合っている暇なんてない。進まなければ、止めなければ。
「……開けるよ」
ラディスはドアのレバーハンドルに手を置いた。
ゆっくりと下ろし、踏み込んで押し開ける。
黒く塗り潰された不安とは裏腹に。
見るも眩しい真っ白な世界が、六人の視界に飛び込んだ――