第九章



目にしたのは――薬品と、語るもおぞましい臓器の群れだった。

そう、臓器。ホルマリン漬けにされた上でひんやりとした地下室の中ひとつひとつ大きさの異なる瓶の内に収められて、大事に、保管されていたのだ。

自分たちはこんなものの上で正義の役職を担ってきたというのか。長く見つめてはいけない。吐き気を催す前にふいと顔を背けて瞼を下ろす。

「に、偽物だろ……」

それまでは確かにコンクリの壁であったが、階段を下りてきて半ば、頑丈な作りの厚い硝子に変わっていた。ただ触れる程度では気付かない、例えるならそう、防犯ガラスとか。その中心には正真正銘本物の柱が貫き、その周りを円描くようにして保管されていた。一段、二段、……まだまだあるようだ。

「ッ、」

臓器ばかりではない。

今しがたファルコが見つめていたのは眼球である。誰のとも分からない眼が二つ、液体の中をふよふよと。けれど暫く見つめているとそれらは息を吹き返したようにファルコを一斉に睨みつけた。本人がぞっとして声を失ったのは言うまでもない。

「魔物の、だよね。多分」

カービィがさりげなく言ったが本当に、そうであってほしいものだ。

「……行こう」

ラディスはゆっくりと瞼を開いた。

「ルイージ、大丈夫か?」
「う、うん……」

彼だけは人一倍臆病であるというのに。

「素直に謝ったら?」

カービィがぽつり。うっと声を洩らしてファルコは肩を跳ねる。

「……ルイージ」
「?」
「その、……悪かったな」

冷たく風が頬を撫でる。

沈黙の中では靴音だけが虚しく、地下室に鳴り響いていた――
 
 
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