第九章
マスターとクレイジー、彼らの望みはただひとつ。
「クレシス」
腕を組みつつ、窓際の壁に背中を預けて外の景色を眺めていた彼に声をかけた。
「……どうした」
彼の能力はもちろんのこと認めている。スピード、パワー、進化の段階が再下位でありながら、誰と比べても引けを取らない優秀な能力を持ち合わせており、また、今回の件においても選ぶのであれば誰だってまずは彼を優先したことだろう。
そうしなかったのには理由があった。
「皆のこと、頼んだよ」
――静かな雨音が、遠く聞こえる。
「……、」
クレシスはすぐには応えずにじっと此方を見つめていた。
「ちょっとー」
沈黙を掻き切る呼び声にラディスは振り返った。
「なぁに見つめ合ってんのさ」
「あはは、そういうのじゃないよ」
小走りで去っていく友の背中をクレシスはじっと見つめていたが。
「……あの馬鹿」
不意に逸らし、ぽつりと小さく呟いた。
「……ラディス?」
ドアノブに手を掛けたその時、視線を感じて振り返るとそこにはゲムヲがいた。
彼は何かを知っている。けれど頑なに話そうとしない。重要なことを無意識の内に抱え込んでしまうことが癖なのか、はたまた隠さなければいけないのか。
「さっきから何?」
カービィが訊ねるとラディスは首を横に振って、
「何でもないさ。行こう」