第九章
「……ああ」
硝子に触れて、思わず、うっとりと呻いた。
円柱の筒の中で透明な液体に浸されて眠るのは少年少女が膝を抱えた程の大きさはあるであろう純白の際立つ繭。
――弟の新しいカラダ。魂の容れ物。
何もあのままというわけではない。あれはあらゆる素材に従い人型の器を生成して腐らせず、より良い状態で保管する為のもの。
安らかな眠りを約束するそれはさながら、揺籠といったところだろう。……
何もあの円柱の筒ひとつがぽつりと置かれているのではない。
手動で管理する装置がその横にずらりと。といっても操作できるのはその内の一つだけなのだが。……小さいモニター画面を前にキーボードを叩きパラメーター等の最終確認。いつも以上に目を凝らして、何ひとつ狂いの無いように。
万が一の誤りのないよう、慎重に。マウス操作で細かな項目をチェックしていく。
終えて、パスワードを打ち込めばいよいよ。エンターキーを弾いて振り向くと筒へ早足で向かって、備え付けのレバーを握り力を込めて下ろした。
……液体が抜けていく。
続けて繭を囲っていた硝子が機械的な音で鳴きながらゆっくりと、中心部から上下に開いてそれぞれ収納された。後に残った繭はぬめついた液体をとろりと垂らし、尚も“浮いている”。少しずつ後退して見上げているとやがて、変化が訪れた。
どくん、どくんと心臓を打つようにぼんやりとした赤い光を繰り返し灯したがその後、不意にピタリと止んで。シュルシュルと。
淡く光り輝きながら糸を解いていき、その姿を現す――