第九章
おどろおどろしい空気。執拗に突き刺さるのな嫌な予感ばかりで。
「……っ」
容赦なく不安を掻き立てる。
子供たちの内、ユウがそれを誰より敏感に感じ取っていた。ラディスがドアノブに触れると、近くにいたフォックスの後ろへサッと隠れ、服の裾を握って。
「……ラディス」
開くよりも先、
「まずは人を呼ぼう」
フォックスの提案にラディスは振り返った。
――異様に広く設けられた、白を基調にした空間。
床に刻まれた傷。ある程度は修復してあるが、この頃は弟に構ってばかり。いくら簡単で単純な作業であるとはいえ一分一秒そちらに力を注ぐことすら面倒に感じてしまい最近は気にせず放置している。
あの場所の再現ではない。
愛しい弟が力を解放し存分に発揮するのに相応しい舞台を用意する為。けれどまだ目覚めて間もない、乏しい知識の内ではイメージが偏ってしまい、この有り様。
それだってどうだろう、十分じゃないか。これだけ広く、何も無いならば。
「……、」
扉より入って一番奥にぽつりと置かれた円柱の筒の中。
もう何度目だろう。次は、次こそはと浸された液体を抜いて再生を見守ったが完全には叶わず、結果としてあんな醜い生き物を幾つも生み出してしまった。
今度は、大丈夫。これだけのことをして叶わないのであれば、俺は。
……恨んでも仕方ないんだったな。やれやれ。