第九章
……分かっている。
このパスワードは『Master』でも『Crazy』でもない。だからといってそれこそ自分にしか分からないような、下手すると自分さえ忘れてしまうかのような不規則な形で、長々と並べられたものなどでは決してあらず。
いつになく冷静で、慎重にキーボードを叩いて解答を打ち込む。
――『Earth』と。
最後の一文字を打ってエンターキーを弾くと入力欄がパッと消えた。
だがその直後にガチャン、と錠のようなものが外れる音がして、それがパスワード不一致による入力制限ではなかったのだと告げる。音に釣られて揃い、注目するとちょうどそこではカービィが本や資料のある棚を手前に引いている場面で。
「……ビンゴ」
苦笑気味に、ぽつり。
「ほ……ほんまに、一発で決めよった」
「惚れ惚れしますね。何と打ったんです?」
好奇心に満ちた嬉々とした声で訊くリンクにラディスは少しの無言を挟んで、
「……“Earth”」
「あーす?」
「聞いたことない単語ですね。何かの名前ですか?」
ラディスは表情を沈ませた。
「……まあ」
各々が疑問符を浮かべる中ラディスは席を立って歩み出した。
――パスワードによってロックが解除され、棚を手前に引いたその奥にはひとつの扉が待ち構えていた。一見すると何の変哲もない普通の茶色の扉。
しかしその雰囲気はこれまでと全く異なっている。