第九章
「……じゃあ」
間取り図を片手にカービィは扉より向かって左側、棚のある方角へ向かった。
この先に、閉ざされた謎の空間があるのだ。単純な発想でいけばこの内のひとつが動くのだろうが現実はそうもいかない。試しに本や資料の押し込められた棚を右へ左へ、しかし動くはずもなく次に引いて、押してみるがやはりびくともしない。
薬品や実験器具の置かれた棚には触れづらい。一刻を争うかもしれない事態の最中この内のどれかが壊れようとこの部屋の主は気にも咎めないだろうがそれでも万が一、割ってしまったそれが毒ガスに似たものを室内に撒き散らしては危険。
だからといってその棚に触れず構わずというわけにもいかない。
――仕掛けがある。そしてそれを解く鍵は凡そ把握済みだ。
「微動だにしないんだけど……」
カービィは顰めっ面で間取り図と部屋の内装を照らし合わせる。
「なあ。その奥に紙に記された謎の空間があるんやろ?」
ドンキーは腕まくりをして、
「せやったら任しとき!」
「どうするんだ?」
「廊下に出て外から壁を壊すんや! それやったら」
「――無駄、だと思いますよ」
冷静に提案を却下したのはリンクだった。
「そんなんやってみんことには分からんはずや!」
リンクは短く息を吐く。
「……似たような経験があります。ダンジョン攻略の際、どうしても解けない謎にぶつかった時、壁を爆弾で破壊して強行突破を試みた」
誰も口を閉ざして聞いている。
「けれど壁には傷ひとつ付かなかった」
リンクは続けた。
「あくまで推測ですが、ダンジョンを生み出した製作者の強い魔力が働いているのでしょう。ルールに沿わない行動、いわゆる不正を許さず無効果する。そして」
トン、と棚に触れて。
「この状況はそれと非常によく似ている」
「じゃあどうするんでしゅか?」
「仕掛けを解くんですよ。あったでしょう。ポスターの裏のスイッチを押したり、レバーを引いたり、魔物を殲滅したり」
リンクはくすっと笑ってある人物を見遣った。
「……ま、今回の仕掛け。うちのリーダーは真っ先に気付いたみたいですが」