第九章
マスターの部屋。
本人に強く言いつけられていたわけでもないのに彼に用があったにしても不思議と積極的に足を踏み入れようと思わない、そんな場所だった。
「……フォックス?」
扉は開いている。
何の躊躇もなく突破しようとしたその時、フォックスが立ち止まった。フラッシュバック。咄嗟に口元を片手で覆って顔を顰める。……まだ、昨日の出来事だ。
「大丈夫かい?」
ラディスが心配して声をかけた。
「やっぱり、部屋に戻って休んでいた方が……」
「いい。このくらい、問題ない」
優しさを振り払うようにして踏み出す。少し言い過ぎたか、そう思って、
「……平気さ。ありがとう」
顔を見せないまま。口調を落ち着けて付け加え、フォックスは部屋の中へ進んだ。
「何か見つかりましたか?」
「いんや。なぁんも見つからんわ」
「ガキンチョ組ー、ちゃんと探してんのー?」
先客。机の下、棚の上と手分けして手掛かりを探っている場面に出くわした。
「誰がガキンチョやっ、――あづッ!」
単語に反応して頭を上げたのが運の尽き、机の裏に頭をぶつけて蹲る。
「……阿呆ですね」
と溜め息を吐いたリンクが此方に気付いた。