第九章
クレシスは乾いた笑いを浮かべた。
「あいつが、イレギュラーなのは分かってる」
ははっ、と頭を抱えて、
「……なのに。それ以上の疑問が生まれない」
靄がかかっている。封鎖されている。
硬く、揺るがず厳重に。……
――たまにあったでしょ? 頭に引っかかるような感覚とか。
「とにかく。そいつも知ってるのか知らないのか答えようとしない」
クレシスは立ち上がった。
「それも頑なに、だ。なら本人見つけ出して問い質すしか方法ないだろ」
「と、問い質すってクレシス、場所が分かるのか?」
「分かるわけねえだろ阿呆かお前」
定番だったこのやり取りも何だか懐かしい。
「あいつは此処には戻っていない。屋敷の隅から隅まで探索済みだ」
ここでラディスは、屋敷が普段より静かであることを思い出す。
「……じゃあ」
「総出とまではいかないが、適当にペアを組ませて探索させている」
クレシスはふっと笑って続けた。
「お前の部下なのに、勝手にこき使わせてもらってすまないな」
これを飲んだら俺も探そう。何かひとつ、手掛かりだけでも。
「……そういえば」
紅茶を口にしながら、フォックスはぽつりと言った。
「屋敷に居ないってことは今あいつの部屋、がら空きってことだよな」