第九章
思えば、今日一日でよくもまあこんなにも立て続けに物事が起こったものだ。
これがじわじわと、であればいくら“少し抜けている”とメンバーから定評のある自分でも頭がついていったかもしれない。だが、残念なことにそんなことはないのでこうしてフォックスに説明しながら、事件の諸々に関する復習を試みる。
「……、」
フォックスは黙って聞いていた。
話の途中途中で質問を飛ばしてくるより幾らかマシなのだが、それにしては至極冷静で思わずちらちらと横顔を確かめたくらいだ。何せクレイジーというマスターの弟に憑依されていたのだと説明した時も、「そうか」と返しただけなのだから何というか大きな反応を期待していたわけでもないが拍子抜けである。
「……そうか」
話を終えた後でもフォックスは変わらずこの反応だった。
「じゃああれは夢じゃなかったんだな」
フォックスは眉を顰める。
「……昨日の夜、目が覚めた俺は部屋に戻る途中たまたまドアの隙間から光が漏れていたマスターの部屋が目に留まって、ちょっと注意するつもりで覗いたんだ」
襲うフラッシュバックに口元を手で覆った。
「……、」
ラディスは心配そうに見つめている。
「……とにかく」
フォックスはようやく口を開いた。
「一番恐ろしいのはクレイジーじゃなくてマスターの方だ」
自分とは真逆の意見である。
「弟の為なら平気で……犠牲にすることが出来る。はっきり言って、異常だ」
フォックスの頬を冷や汗が伝う。
「……理想の世界を創造するとか言っていたな」
時を同じくして、ラディスも。
「……まさか」
――二人は間もなく、屋敷に着こうとしていた。