第九章
意識を失う、いや持っていかれるその寸前の景色と全く変わらない。
ただ違ったのはマスターが居ないことと、代わりに本物のフォックスが目覚めているということだった。そういえば、あれはマスターの意識の中だと言っていたな。
同じくクレイジーの意識があの中に居たのなら、フォックスが本物なのも……
「すまないな」
ラディスは森を抜けたところでフォックスにひと言謝った。
「……走らせて」
彼自身はそれ自体気にしていない様子だったが、それでもそれまでクレイジーが体に憑依し、無理をさせていたのは事実。フォックスには備わっていないような、特殊な能力も平気で扱っていた様子だし彼はただ寝て目覚めた程度だったろうがその体には不自然に疲労感が、重く、のしかかったことだろう。
「構わないさ。急いでるんだろ?」
諸々の説明は後回しにした。走れるか、と訊いて走っているだけに過ぎないが、彼はすんなりと状況を呑み込んでくれたようだ。
「……ああ」
喋りながらでは息が続かない。余計な混乱も今はさせたくない。
よって、無言だった。
ただひとつだけ。まずは目的の屋敷に辿り着き、説明をするにあたって。
「フォックス」
これだけは欠かすことのできない前提の質問となった。
「……何処まで信じる?」