第九章
ぷはぁっ、と息を吐き出して飛び起きる。
「っ……はあ、はあ……」
荒く呼吸を繰り返しながら辺りを見回すがそこにマスターの姿はない。
嫌な予感が心臓を落ち着かせない。恐らく、彼の弟のクレイジーの体は完成後直ぐにでも与えられ阻止することは叶わないだろう。あれほどまでに恐ろしい存在だと知っていれば……いや、それでも自分は何も出来なかったはずだ。
「……お」
今までフォックスに憑依していたんだ。
いくら分かったところで、
「起き、た……」
大切な友人を手にかけるなんてそんなこと――
「……フォックス」
ゆっくりと振り返って、ラディスはぽつりと呟いた。
対して向こうもぽかんとしている。何度も起こそうと揺すってくれていたであろう手が空中に留まったまま、口を小さく開いて硬直状態。
「フォックスなのか?」
ラディスは信じられないといった様子でまだ硬直しているフォックスの肩を掴む。
「何か、違和感はないか。自分の中にもうひとつ、何かがいるような」
接近してしまったからには問い詰める。変わってなければ自分が死ぬだけだ。
「は……?」
フォックスは呆れたように返した。
「それ、お前の方がおかしいんじゃないか?」