第九章



「……僕にはまだ分からないなぁ。兄さんがどうしてお前に拘るのか」

幼くも狂気を宿した瞳がじっと此方を見つめてくる。

「お前にばかり……構って、構って構って構って」

重く空気がのしかかる。いやこれはただの単なる“空気”じゃない。

「ここ、何処だか分かる? 兄さんの意識の中なんだよ」

突き刺すような。

「その内の記憶倉庫、だからここにいる僕だけじゃないお前だって本物」

或いは絞め付けるような。

「……ただの意識だけどね」


殺気――


「ならここで手を出されたって平気だと思ってる?」

近付く。

「残念ながら不正解。ここで死んだら本物の体はただの抜け殻も同然になる。そうでなくても死の恐怖を味わったら最後、正しくは機能しないだろうね」

……零距離。

「何なら試してみようか」

目を逸らせない。

「ねえ」

蛇に見込まれた蛙かのように。

「……試(ころ)させてよ」

息が詰まる――
 
 
44/92ページ
スキ