第九章
「……僕にはまだ分からないなぁ。兄さんがどうしてお前に拘るのか」
幼くも狂気を宿した瞳がじっと此方を見つめてくる。
「お前にばかり……構って、構って構って構って」
重く空気がのしかかる。いやこれはただの単なる“空気”じゃない。
「ここ、何処だか分かる? 兄さんの意識の中なんだよ」
突き刺すような。
「その内の記憶倉庫、だからここにいる僕だけじゃないお前だって本物」
或いは絞め付けるような。
「……ただの意識だけどね」
殺気――
「ならここで手を出されたって平気だと思ってる?」
近付く。
「残念ながら不正解。ここで死んだら本物の体はただの抜け殻も同然になる。そうでなくても死の恐怖を味わったら最後、正しくは機能しないだろうね」
……零距離。
「何なら試してみようか」
目を逸らせない。
「ねえ」
蛇に見込まれた蛙かのように。
「……試(ころ)させてよ」
息が詰まる――