第九章



「驚いた。ちょっと見せただけなのにそこまで分かっちゃうんだ」

台詞の割にクレイジーはちっとも驚いた風ではなかった。

「ま、当然だよね。この世界自身、兄さんそのもののようなものだし」

ラディスは思わず凝視した。

「元々は共用されるべき記憶だったってこと。兄さんはそれを知られない為にわざわざ二重にも三重にもロックを掛けて規制してきた。たまにあったでしょ? 頭に引っかかるような感覚とか。探りを入れるよりも先に考えを放棄しただろうけど」

何となく思い当たる。何から何までお見通しのようだ。

「全てを知ったらあんた達は自身の存在、歴史に絶望を抱き、それこそ何もかもを放棄する。それじゃあ僕たちの理想には成らない」

クレイジーは笑う。

「話が逸れちゃったよね。これじゃ兄さんに叱られちゃうな」

自分としてはその辺もう少し詳しく訊ねたいところだが。

「一応、さっきの質問に答えておく。答えは簡単だよ」

クレイジーは先程とは違う、口角を吊り上げた不気味な笑みを浮かべて言った。

「僕たちが双子の兄弟だからさ」

状況とは裏腹にぽかんと呆気にとられてしまったのは言うまでもなく。

「“シンジュウ”を取り込んだまではよかったんだ。結局は制御できなくて、体内で酷い細胞分裂と膨張を繰り返した挙げ句、中から派手に破裂して“肉体は”全く使い物にならなくなっちゃったんだけど」

クレイジーはそんな様子のラディスを無視して嬉々として語る。

「でもね、兄さんは僕を食べてくれた」

ぴりっとした感覚が襲う。

「あの瞬間から全ての準備が整っていたんだ。馬鹿な研究者たちはそれを知らずに最後の仕上げをしてくれた。本当はね、転生を果たす為には兄さんが本当の意味で死ななきゃいけなかったんだけど」


――そんなこと。


「僕がさせるはずないだろ?」
 
 
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