第九章



世界が崩れていく。

その最中で再び映し出された映像は、微かなノイズを走らせながら、研究室を赤く濡らして立ち尽くすマスターの姿を映し出していた。瞳には青の光がぼんやりと、けれどそこに感情はなくただぼうっと立ち尽くしているかのようにも見えて。

「……マスターは、いや、まさか君も」

ラディスは少し距離を置いた先のクレイジーを見据える。

「だから言っただろ。兄さんは神様だって」
「確かに最初から見ていたさ。自身の記憶を他人に見せるこの能力だって、いくら名の通った魔術師といえど不可能に近い」

言って、ラディスは眉を顰める。

「それを彼は難なくこなしてみせた」

ただの額に手を翳す、その動作たったひとつだけで。

「でも、言わせてくれ。過程をすっ飛ばしていきなり神様になんかなれるもんか」

見せられた映像の中で彼らは語っていた。


繭化実験。シンクロ率。……そして、“シンジュウ”。

“シンジュウ”の正体とは恐らく、実験に失敗した子供たちの成れの果て。

出来損ないでも、可能性を秘めた子供に呑まれることで僅かでも神力に成り変わることが可能だったのだろう。けれどそれでは完全な神にはなり得ない。

そこで、必要となるのが双子の片割れ。


融合を果たすことで叶うのは他ならぬ神への転生。

“二つでひとつ”。生まれ落ちる神は一柱。


しかしその転生までに多大な時間を要するのは明白。

前例はない。けれど常識的に考えて。


なのにどうして。

双方がほぼ同時に神への転生を果たしたのか――?
 
 
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