第九章
部屋に足を踏み入れた次の瞬間、パァン、パァンと二度破裂音が響いた。
とある少年の首と脇腹が異常なまでに膨れ上がり、それはまるで風船かのように、弾けて。赤い液体が宙を舞って床に、天井に、そして俺の頬にも幾つか跳ねた。
彼の身体はぼんやりとした白い光を纏い、先程の触手はその光から生成されているようだった。少年は床に倒れてしまったにも関わらずそれら触手は暫くの間、うねうねと不気味に蠢き、やがて、先端部から粒子となって消滅。
後に残されたのは。
紛れもない、弟の無惨な亡き骸だった。
「……クレイジー」
こんな所で寝たら風邪を拗らせてしまうぞ、と。
一歩、また一歩と踏み出して。じわり、じわりと床に広がっていく血溜まりに足を付ける。触れず、構わず歩みを進めていたがふと視界の端に何かを捉えた。
――血溜まりの中にぽつりと浸かっているアレは……青い、ウィッグ……?
「ち、違うんだマスター」
若い研究員の一人が酷く怯えた様子で弁解を始めた。
「全て、全てが上手くいくはずだった。なのに、なのにそいつが」
俺は弟の身体に視線を戻す。
「そいつがお前に化けて――!」
ギュィン、と。辺りに散らばっていた硝子の破片、鋏やメスといった実験器具の数々を超能力による遠隔操作で持ち上げて、鋭いその切っ先を男に向ける。
「ひいっ!」
男は引き攣った声を上げた。けれど決して振り向かず、また一歩。
……ようやく亡骸の前まで辿り着く。その頃には持ち上げた破片や器具もばたばたと床に落ちて、同時に男もがくんと腰が抜けて座り込んだ。
「……クレイジー」