第九章
握られたままの鉄格子が微かに声を上げている。
「ひっ……た、竹島ぁ、お前何とか言えよぉ」
青ざめたその顔を引き攣らせ、ガタガタと。
過去に俺が自身の意思で研究員を殺したのは指で数える程度。でも、だからこそ容赦はなく彼らの脳裏にはより恐ろしいものとして刻み込まれたのだろう。
「ゔぁあ……ああッ……!」
次の瞬間、研究室の中から聞こえてきたのは男の声だった。
悲鳴にしては様子が違う。苦しく痛ましく、ぞっとするようで気持ちが悪い。
「ひぃっ!」
――クレイジーが、この中に。
扉の前に駆け寄ってドアノブを捻り、ガチャガチャと押したり引いたり繰り返すが開かない。ドン、と拳で殴って後ろの研究員を睨みつける。
「きゃああぁあああ!」
次に響き渡ったのは正真正銘女の悲鳴だった。
刹那、何かが勢いづけてぶつかったのか鉄製であるはずの扉が此方に向けて大きく盛り上がった。思わず手を引き硬直して見つめる。
「マスター!」
研究員の声によって我に返り、咄嗟に脇へ飛び込んだ。
ズダン、と。真っ白な何かが扉を突き破る。
「ひ、檜山博士……」
不気味に蠢く触手はその見た目に反して白く光り輝き、そして一見柔らかそうな先端に腹を貫いた男の体を吊るしていた。先端は壁に突き刺さっており、コンクリの欠片がぽろりと落ちる。位置が悪く巻き込まれたのだろう、見張りをしていたあの男も触手によって壁に押し付けられ潰されていた。
真っ白な触手に赤が滲んでいく。やがて、ずるりと引き抜き、ずるずるとその身を地に引きずって部屋の中に帰っていくのをはっとして追いかける。――だって。
だって、あの中には。