第九章
……そんなの。駄目に決まってるじゃないか。
誰かの意思が僕たちの意思に逆らって、引き離すなんて。そんなことをされたら、僕も兄さんも壊れてしまう。だって僕たちは二人でひとつ。
ひとつの心臓を、二人支え合って生きているのに。
「無理に引き離せばどうなるか分からないぞ」
「この俺を見くびりすぎだぞ斗真。上手くやれるさ」
声が聞こえる。
「……兄の方が優秀と言ったか」
「総合値から見ればそうだが――」
「決まりだな」
――男の言葉に。
僕は目を開いてその場を逃げ出した。
「……兄さん」
ようやく辿り着いた暗がりの中で。
「ねえ、ねえ、兄さんったら」
僕は力なく肩を揺すって呼びかけていた。
「こんな所に居たら殺されちゃう……」
……どうしよう。
あいつらの話が本当なら、兄さんが死んじゃう。
「ん……」
小さく身じろいでうっすらと瞼を開く。不安げに瞳を揺らす僕を見上げて兄さんは微笑すると、両手を伸ばし優しく抱き寄せてくれた。
「……どうした。お化けでも見たのか」
暖かくて。
「お前もまだまだ子供だな」
……優しくて、苦しい。