第九章
……え?
「殺したって」
「あの双子姉妹のことか」
思い浮かぶ顔はあの二つだけ。
「成る程な、あの実験動物をそう……くくっ」
その男は含み笑いに肩を震わせた。
「未来を願う尊い命だった! 貴方が、誤った判断を下さなければ!」
「お前が研究者として誇りを持つなら恥を知れ。科学に、犠牲は付き物だろう?」
「いいえ違います」
「どうしてそう言い切れる?」
博士はひと呼吸置いてはっきりと返す。
「……結果とは進化でなければならない。そこに犠牲が生じるのであればそれは過程の問題ではなく、我々科学者が如何に無能で無謀だったかということだ」
空気が冷たく色を変える。
「何が言いたい」
「貴方のやり方は間違っている……」
博士は声を上げた。
「科学者でも何もない! 無慈悲な、ただの人殺しだ!」
……博士。
乾いた音が小さく響いた。
はっとして扉の隙間から覗くと、今まさに赤の雫が弾け、宙を舞って。
「……お前は父親にでもなったつもりか?」