第九章
――繭化実験。
蝶や蛾に例えてみればそれは蛹の段階であって、成虫、即ち神様になる為には決して欠かすことの出来ない重要な事項らしい。どういった具合に実験を行うのか、というとそれにはまず一定以上のシンクロ率とやらを安定して長期間保ち続けて且つ優秀な成績をおさめる双子が必須らしく。
それとは別に、“シンジュウ”という生き物が必要らしいが……
「しんじゅう?」
「神が従える獣のアレとは違うのか」
双子の兄妹は揃って首を横に振る。
無関係とはいかないまでも“シンジュウ”についてはそのパソコンに記されてなかったらしい。まさかそこらの野良猫か犬じゃあるまいし、何にせよ実験に必要不可欠だというのであれば……まあ、ここも研究所。ただの生き物であるはずもないか。
「とにかく、繭化実験を終えればぼくたちは神様になれるらしい」
双子の兄は口を開く。
「ただひとつだけ気掛かりなことが、」
「すみません、血液検査を控えている子供たちがまだ来ていないのですが――」
不意に開かれた扉の先で、惨状を目の当たりにした男性研究員がはっと目を開く。
「あ……」
小さく声を洩らして、立ち竦む。
気になるがここまでだろう。結局のところ検査とやらも重宝している。悪い病気をうつされて、それで弟が苦しむのは御免だからな。
「邪魔しないで」
そう思ったのも束の間、クレイジーは一歩前に進み出て赤い瞳で見上げた。
「兄さんの邪魔をしないでよ」