第九章
なっ。弟が小さく声を洩らす。
「ちなみに。あたしはトロベっていうのよ」
うねりのある桃色の髪を手の甲で掬って払い、誇らしげに。
「……可愛い名前でしょ?」
「んなのストロベリーから文字パクっただけだろ!」
「変な実験動物みたいな名前より、ずうっとマシだと思うけど?」
成る程。随分と強気な女だな。
「トロベちゃん。お、お注射の時間だよ?」
彼女とは打って変わって弱気な雰囲気を醸し出す、青紫の髪をツインテールに括った片割れの少女が遠慮がちに袖を引く。
「むぅ……」
トロベは不服そうに、けれど弟と視線を交わせばふんとそっぽを向いて。
「な……なんだよあの女!」
短気な弟が腹を立てたのは言うまでもなく。
本当はいい奴なんだ。
自分と違って感情を表に出しやすく、激しい面も多々あるが。それ以上に無愛想に振る舞いながら意外と情に厚く人を思い遣る心があって何より可愛い。
弟だからかな。兄さん、兄さんって何をするにもくっ付いてきて離れない。
今の世間ではこういうのを“ツンデレ”というらしい。
確かに。全くその通りだと思う。