第九章
それどころか、彼らは此方に目もくれない。
「……もしかして」
ラディスは立ち上がる。そしてちょうど正面から足下に転がってきたボールを拾おうと腰を曲げ、手を伸ばした――
「えーっ!」
はっと目を開く。
「まだ五分も経ってないじゃん!」
……ボールは止まらなかった。
ラディスの手を、足を透けてもう少し転がった末に止まったのだ。続けてラディスは自身の頬をつねってみることにする。
「もう少し遊ばせてよ!」
……痛くない。
感触はすれど爪を立てたところで痛みを感じなかった。まるで神経に対し、麻酔をかけられてしまったかのように。
「すぐに行きます」
触れられず、声は届かない。
「……行こう」
姿も見えていない。
「……兄さんが言うなら、そうする」
この状況には一体どんな意味が? まるで干渉は不可能、ただ見せつけられて。
――その目に映る惨状を見届けたら。
「……まさか」
青い髪の少年は赤い髪の少年の手を取って歩きだす。