第八章
どうして。
「……弟の為なのか?」
ラディスは視線を落とした。
「その腕……」
――気付かないはずがなかった。
それは単なる負傷と称されていたのに。左腕と左目は共に見る影もなくこれまでの発言からそれが彼の目的の為に捧げられたことは明白で。
「例え何かを守る為だったとしても、俺にはそこまで出来ない」
それでも。
「――いつだって」
俺は。
「死ぬ覚悟で戦わなければ、何も守れない」
助けになりたいのに――
「……遠い昔に痛感している」
マスターはゆっくりと歩み出した。
「自身が如何に無力で、且つ愚かだったかということを」
影が差した時。ラディスははっと顔を上げる。
刹那、額に向けて人差し指と中指がそっと置かれた。以降ラディスの体は金縛りに遭ったかのように動かない。マスターは変わらぬ口調で続ける。
「最後の依頼だ」