第八章
ふらりと踏み出す。
「兄さんの言いつけは守ってきたよ」
一歩。
「……ずっと。でもね、僕だって」
一歩。
「これ以上はイイコで待てな」
「――クレイジー」
マスターは不意にその右手をおもむろに、手の甲を表にして前へ突き出す。
ごめんな。
そう言ったかのように聞こえた。
刹那。フォックスの目前に青い魔法陣が浮かび上がり、それはたちまちフォックスの額に吸収されると、代わりに握り拳程度の赤い光の玉を吐き出した。
続けてマスターが手のひらを表に、人差し指でくいくいと招くと、その光の玉は、まるで人と同じ感情があるかのようにふわふわと浮かびながらマスターに接近して胸の中へと吸い込まれていってしまった。
その光景の意図も掴めないまま、だがしかし。フォックスが意識を手放して両膝を付き、地面に倒れるとラディスは慌てて飛び出して、
「フォックス!」
迷いなく。
「……うちの弟がすまなかったな」
傍らに跪き、抱き起こして見つめる。
「許してやれとは言わないが、見逃してやってほしい。あの通り、物事に敏感で」
「――何処までなんだ?」
言葉を切って。
マスターは口を閉ざしてしまった。