第八章
「そ、それより!」
異常接近をするフォックスを引き離して、ラディスはぱっとマスターを振り返る。
「弟の体を完成させたら、魂を移し替えるんだろ?」
マスターは口を開こうとして、
「それだけだよな?」
……閉じた。
何かまずいことを言っただろうか。いや、言ったのだろう。
現に少しだけ回復を見せていた空気がずんと静かな重みを見せて。それとは裏腹に雨はようやく降り止んで。雲間には微かに光まで差してきたというのに。
「……分かってない」
ラディスは咄嗟に振り向いた。
「やっぱり誰も。なぁんにも分かってない」
赤黒く濁った光差さない瞳がゆっくりと此方を捉えた。
その瞬間、ぞわぞわと。蛇に見込まれた蛙かのように体は動かなくなってしまう。
「兄さんはずっとこの日を待ち望んでいたんだ。あんた達ニンゲンが生まれるよりずっとずっと遠く、遥か昔。僕と兄さんの理想の為だけに。……ずっと」
フォックスはゆらりと足を一歩踏み出す。
「そうだよ。分かるはずがない」
口角をにやり、吊り上げて。
「理解し合えるのはいつだって同じ。僕たち二人だけだった」
じりじり。じりじりと。
「“それだけ”じゃなかったら」
近付いてくる。
「何?」