第八章
クレイジーハンド。
今現在、フォックスの体を仮の器として乗っ取っている。言動から狂気の滲むその正体は魂だけの肉体を持たないマスターの弟。
……例えば、だ。
弟がどんなに兄を好いていようがそれは構わない。異性か同性かによってこういった意見ほど左右されてしまうものがあるが、何にせよ美しいじゃないか。
限られた話ではなく。愛という存在そのものが。
「……は」
けれどさすがのラディスもその発言にはそんな声が洩れた。
「え、」
「本当だよ」
ちょっと待ってくれ。落ち着け。いくら何でも、大袈裟すぎやしないか。
「兄さんは神様なんだ」
宗教。ふと頭に浮かんだが、それだ。限りなく近いものがある。
こういった俄かには信じがたい事態に巡り合わせた時、信じることを最優先としているのが主流だ。元々賢い方ではないのでその方が考えもまとまりやすいし、結局嘘だったにしても疑りかかって空回りするよりはずっとマシ。
……いや、それにしても。
エイプリルフールにだってこんな嘘はつかれたことがなかったぞ――!?
「聞いてる?」
言葉を失ってしまっていた。当然の反応だと思う。
「も、もちろん」
疑いの眼差しを向けられたのは言うまでもなく。