第八章



――金色の髪を乱して。男は、森の中を息を弾ませ駆けていく。

レイアーゼ都市南部に位置する深く静かな森。白夜の森と呼ばれる其処は空気が澄み渡っており、木々の葉はエメラルドグリーンの美しい色合いを魅せる。

不意に茂みが揺れて音を鳴らせば、男は立ち止まった。咄嗟に振り返るが刹那、飛び出してきたのは二羽の兎。その男を物珍しそうにじっと見つめた後、ぴょんぴょんと競争をするかのように何処かへ行ってしまった。

「……っ」

大粒の雫が頭の天辺に落ちてきて、男は顔を上げた。木々の隙間から窺える空はどんよりと、雨足は弱まったがそれでもまだ降り止まない。

男は白い息を吐き出して、微かに身を震わせた。


「……マスター」


そんなに長い時間は経っていないはずだ。

しかしラディスは走るのをやめて森の中を歩くことにした。そりゃあまあ都心部からここまで走ってきたのだし、疲れが出たとしてもおかしいことではない。

……それにしてもここは綺麗な所だな。自分だって、森の中で住んでいたのだからここがどれだけ住みやすい環境なのかは分かる。

それでも、素人なりの判断だが。

屋敷の方は大丈夫だろうか。目の覚めたフォックスが、本当にフォックスであるかは保証されていない。いやその方が確かな情報を収集するのに最適だろうが、任務でのあの動きは早々に侮れない。身体能力を借りているのであれば話も変わるが。

――ふと、森の切れ目が見えてきてラディスは歩を緩めた。

出口と称するべきだろうか。生身で飛び出すわけにはいかないだろうが……
 
 
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