第八章



少しの間をあけて、フォックスは声をかけた。

「どうかした?」

はっと我に返って顔を上げる。

そうだ、こんなところで彼らを構っている暇などないというのに。ちょっとぐらいの不具合は後から修正してしまえばいいじゃないか。

……その為にも。

「兄さん?」


弟のカラダを完成させなくては。


「何でもない。行こう」

マスターが屋敷に背を向けて歩き出すと、フォックスはすぐに肩を並べて。

「何処に行くんだよ。僕のカラダは?」
「俺が戻ってきたのはお前の様子を見る為だ」
「ふぅん。じゃあまだ暫くこのままになるのかぁ」
「貴重だろう。お前のカラダに尻尾は生えていないからな」

……遠ざかっていく。

「またそうやってからかう。ま、確かに面白いけど」

声も、姿も。

「ってか兄さん聞いてよさっき言いかけてた話なんだけどさ――」

誰も止めようとはしなかった。

その手に武器が、自身には力がありながら。


止められるはずがないと、何故かその時全員がそう悟ってしまっていたのだ。


「……くそっ」

ファルコは固く拳を握り締める。

次第に雨足は弱くなり、しとしとと静かな音を響かせて。開いた屋敷の玄関からは相変わらず口を噤んだままのゲムヲが、じっとその光景を見守っていた。……
 
 
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