第八章
――心臓が跳ねるのを感じた。
その顔も、声も全く同じで何も変わらない。ファルコが目を開いて固まっていると数秒の間をあけてフォックスはくすくすと笑みをこぼした。
「なぁんちゃって」
拍子抜けするような変わりようだった。
「驚いた?」
そう言葉を続けつつ、ファルコにぐいと顔を寄せる。
「なかなか似てたと思うんだけど」
差し出した人差し指が喉元から臍にかけてゆっくりとなぞっていくのをファルコはただ黙っていた。……いや。硬直が解けなかった、と言うべきか。
「まさか、擬人化されてるなんて思いもしなかったからさ。最初は警戒しちゃってそれで冷たい態度とったんだけど、許してよ」
――話の重点が何処に置かれているのか。
「好きだったんだよ、結構」
分からない。
「あ、触るなってのは本当だから。兄さん以外に触られるとか」
「その辺にしといてやれ」
マスターが言うと、フォックスはぱたりと口を閉ざした。
「……分からないようにはしていたからな」
ふぅん、とつまらなそうに声を洩らす。
そうして視線を残しつつ離れようとしたところ。ファルコは再び、腕を掴んだ。