第八章
雰囲気が、まるで違う――
普段の彼からは想像もつかないくらい狂気に満ちている。悪魔のようだとはいかないまでも見知った彼とは明らかに異なっていた。自分たちの記憶が正しければマスターハンドという男は誰よりも穏やかで、時に冷酷で且つ優しさを秘めていて……
そこまで考えて、誰もがはたとやめたと思う。……それこそ。
推測に過ぎなかったという事実に。
「っ、」
バチバチと電気の擦れる音を響かせて今、漆黒の雷撃が放たれた。
地面を抉りながら、対象に狙いを定めて獣の如く襲いかかる。だがしかしそれは惜しくも届くことなく直前で弾かれてしまった。マスターは小さく息をつく。
無駄だ、とでも言うように。
「……言え」
静かながらも、クレシスは仄かに殺気を含ませた声色で訊いた。
「お前は何者なんだ」
ところが、今度もマスターは呆れたように返すのだ。
「分からないな」
「……何がだ」
「そうやって俺を特殊かのように扱うお前たちが、だ」
クレシスは怪訝そうに眉を寄せる。
「人間の悪い癖だ。いつだって基準は自分。ひとつでも異なることがあればすぐにそいつこそが特殊なのではないかと疑う」
「もしもーし。中二病ですかー?」
からかうように呼びかける声は無視して、マスターは続けた。
「どうして気付かない。……特別なのは俺じゃない、“お前たち”だ」