第八章
彼女の話が本当だったとすれば。
……フォックスは仮の器として選ばれたことになる。仮の器、というのもマスターが弟の身体を錬成しようと企んでいたのが最もな理由となるだろう。
まさかここに来てフォックスの身体で妥協することは有り得ないだろうし、それより何よりあの状況だ。……有り得ない、ということを省くならマスターはその弟の魂をこれまで何処に仕舞っておいたのだろう。
いや、そもそも彼に弟がいたという情報だって。
知らなかった。こんなにも、俺は理解できていなかったんだ。知ったようなつもりになって庇おうとした、今だってそう、でも、この考えは変わらない。
人体錬成、蘇生術。数多の実験を繰り返してきたのは全て、死んだ弟の為?
……それだけなんだよな?
「ああいけない。話し込んじゃった」
現実に引き戻される。女性は壁に掛けられた時計を見上げて言った。
「何だか、話だけ聞かせちゃって悪いわね」
「いえそんなことは」
収穫になった、とまでは言えず言葉を切って苦笑いを浮かべる。
「……そういえば、マスターを探してるんだったわね」
「はい。一度屋敷に戻ってみようかと」
「白夜の森には行ってみた?」
ラディスは案の定きょとんとした。
白夜の森――といえば。名前からその地域は太陽が沈まないものと思われがちだがただの名である。レイアーゼ都市南部に位置する、深く静かな森。
森を抜けた先には青く広大な空を見渡せる。
「お気に入りの場所みたいなの」
もしかして。
「……失礼します!」
今度こそ、いるかもしれない。
確信はなかった。けれどこの胸がざわつく感覚は。野生の勘、だろうか。
それでもいい。頼む。――いてくれ。マスター!