第八章
女性は驚いたように目を丸くして、
「違う違う! そこまでいったら警察沙汰だって!」
と、両手を振りながら否定してくれた。……ほっと胸を撫で下ろす。
「数年間身元不明で安置されていた死体を安置所からこっそり引き取って。夜中に寮を抜け出して、それからは夜が明けるまで実験室に入り浸って」
ラディスは黙って話を聞いていた。
「それが……若い教授に指摘されちゃってさ」
――すみません、申し訳ありませんの問題じゃないことくらい分かるよな。
室内の空気は重苦しく、そんな最中でとある青年は親のコネで入ってきたばかりの名ばかり教授にこっぴどく叱られていた。
「……弟を助けたいんです」
その青年がそう重く口を開いたのは話が切れてから間もなくのこと。
「器が必要なんです」
「はあ?」
そう言って青年は、自身の胸に右手を置く。
「……だから弟の身体を練成し、蘇生術によって機能させる必要が」
「お前さぁ、馬鹿だろ?」
青年が少しだけ目を丸くするのも構わず、教授の男は言い放った。
――死んだ人間は、どう足掻いたって戻ってこないんだよ!
「マスターがあんな目をするなんて」
……想像した。
「ちょっと怖かったな」
絶対零度の如く冷えきった瞳が殺意の火を灯し、見つめるのを。