第八章
受付嬢とのやり取りをたまたま耳にして興味を示し、好奇心に突き動かされるがまま声をかけてきたのは研究部に属するという若い女性だった。踵の低い靴を履いておきながらすらりとした長身に、まさか負けてはいないだろうなと現時点における状況とは裏腹に余計な不安が頭を過ってしまう。
「それでね……」
ここの人間にとってマスターは誇り高い人物だったのだろう。
司令塔の中にあるちょっとしたラウンジで紙コップに注いだコーヒーをお供に、いつの間にか話し込んでいた。いや、どちらかといえば一方的に聞かされているだけで――なんとまあ、お人好しな人間なのだろうか、自分も。
こんな時だからこそ断るべきなのに。
「頭脳明晰、成績優秀。本当非の打ち所のない人で」
女性は半分程残したコーヒーに映る自分の顔を見つめて、紡いだ。
「……だからこそ、驚いちゃったな。あの時は」
――あの時?
「ウチらも政府に飼われてるようなもんだし、問題はないんだろうけどね」
そして女性は静かに、その言葉を紡いだ。
「……人体錬成と蘇生術」
目を開いた。おいおいそれは寧ろ大問題じゃないか、研究部に属するとこうも頭が逝ってしまうものなのか? いやこれはさすがに考え過ぎだろう。
「……それって」
ラディスは恐る恐る口を開く。
「まさか、生きている人間を犠牲に……?」