第八章
「……そうだよ」
事態を察したのだろう、マルスが口を開いた。
「ゲムヲ。君は『Game & Watch』という“ゲームの中の世界でのキャラクター”であるはずだろう。……本体でもあるゲーム機器は壊れた。それなのにどうして、未だ何事もなかったかのようにそこにいられるんだい?」
終始無表情を貫いていたゲムヲはそこで初めて驚いたような顔をしてみせた。
そう。重要なのは何もマスターに限った話ではないのだ。だが彼の取り戻した記憶の中には確かに関連性がある。それであれば情報は提供するべきだ、なのに何故か彼はそれを隠そうとしているというのだ。今だって口を閉ざし視線を落として……
「言えないなら紙に書けばいいんでしゅ!」
「そういう問題やないやろ」
リムとドンキーのやり取りから何気なく顔を背けたその時、ユウは廊下に並んだ窓の向こう側でとある人影を捉えた。たっと駆け出し、窓に張り付いて。
「ユウ?」
「帰ってきた」
――信じる? 疑う?
「……そうですか」
ありがとうございました、と女性に告げて受付から離れる。
いない。まさか入れ違ったんじゃないだろうか。小さく溜め息をこぼす、その男の正体はラディス。マスターを探し、都心部にある司令塔を訪れていたのだった。
が、……見つからない。
「マスターを探しているの?」
今の気分とは対照的に比較的明るめな声に、釣られてラディスは振り返る。
「あなたは……」