第八章
――それって。
「妊娠」
「ラディス」
そういう空気じゃなかったか。
「あいつ、朝から様子がおかしくて」
ファルコは辛そうに眉を顰めて語りだす。
「なかなか起きねえから見に行ったらうなされてるし、食堂じゃあんな調子で……あの後だってトイレの中で吐いて……!」
彼は、言わばパートナーだ。声の重さから、その時の光景がどれだけ恐ろしかったものなのかひしひしと伝わってくる。
「吐いたって……」
「ラディス」
「まだ何も言ってないぞ」
ルイージは腕を組んで。
「……確かに妊娠時における悪阻も自分の中に異物の存在を感じて体が拒絶反応を起こすからだと言われてる。推測のつもりだったけど可能性は高いよ、兄さん」
本当に、そんなことが現実で起こり得るのだろうか。確かに、自分たちはこれまで非現実的な現象を嫌というほど目にしてきたし、自分たち自身もその類で。
――だとしたら誰が? 何の為に?
「……あいつだ」
ラディスははっとファルコを見遣る。
「マスターだよ! あいつが、あいつが何かしたんじゃねえか……!?」