第八章
躊躇いを見せるラディスを置いて先に入室したクレシスが、割と早い段階でぴたりと立ち止まった。意を決して、ラディス。……そしてその光景に目を疑った。
「今、薬が効いてやっとおとなしくなったところだ」
ベッドに寝かされていたのではない。
カーテンを閉め切った窓際、黒い布によって目隠しを施され首には重い鉄製の枷が掛けられている。それは両足首にも同じように、じゃらじゃらと鎖を繋いで。
両手は後ろに回された上で拘束されているようだった。
まるで猛獣か、はたまた化け物のように。与えられた薬によって強制的に深い眠りに落ちたフォックスは床に座り込み、壁に背を預けぐったりとしている。
俄かには信じ難い光景だった。
「もう、ワケ分かんねえよ……」
「ファルコ」
彼を連れて帰り、今に至るまでずっと傍にいたファルコはベッドの縁に腰を下ろし膝の上に置いた拳を握り、項垂れていて。
「……説明しろ」
クレシスは白衣を羽織ったマリオに視線を投げかける。
「何があった」
マリオは注射器や聴診器を箪笥の中に仕舞うと、暫し沈黙した。
やがて、口を開く。
「……フォックスの中に」
表情には影を差しつつ。自身も信じられないといった様子で。
「もう一人。人格とは異なる、魂の存在を……確認した」