第八章
それが任務のことを指していることもまた――明白だった。
「こいつが今回の依頼、か」
クレシスは廊下を歩きながら依頼届を翳した。
依頼人はレイアーゼ都市東地区、銀行会社に務める若い男性。
市内各所で多発している連続強盗殺人グループによる犯行を遂に許してしまった。
被害に遭った女性は心優しい上司の娘で、もう数日ほど目を覚まさない。こうしたきっかけがありながら力の無いことが悔やまれる。……どうか。
今度こそ。この事件を終わらせてほしい。
「情報が少なすぎやしないか?」
「奴らのアジトは突き止めているから心配するなって」
クレシスは怪訝そうに目を向ける。
「……マスターが」
またあいつか。クレシスは目を細めた。
万能を絵に描いたような男だ。不可能を可能に――自身が、ダークリンクに心臓を突かれた時も治療を施したのは彼だったと聞かされた。
だけど。……そんなこと、本当に。
「フォックス」
ラディスがそう呼んだのではっと顔を上げると。……いた。
「だ、」
「早いところ片付けよう」
声を遮って口を開く。
「……あ、ああ」
その時は疑いもしなかった。
これは、ただの単なる生真面目だと。だから、まさか彼の体に。
とある異変が生じていたなんて。
「早く行かないと……」
フォックスは小さく呟いた。
「兄さん……」