第八章
「っ、」
思い出せ。思い出すな。思い出したくない。
「……フォックス?」
気持ち悪い。
「フォックス!」
がたんと椅子を脚に引っ掛けて転がし、それでも構うことなく片手で口を覆い一心不乱に食堂を飛び出す。ファルコは慌てて後を追いかけて。
「……調子、悪いんかなあ」
静まり返る食堂。
誰もが半開きのままの扉をじっと見つめる中。ただ一人、マスターだけは。
「……可愛いやつ」
そう呟いて不敵に笑みをこぼした。……
「う、ぉえ……ッ」
迷わずトイレに飛び込んだフォックスは両膝を付いて嘔吐していた。朝食だってまともに喉を通らなかったというのに、こんな調子では出てくるものも胃液に限定されてくるわけで。後ろで眺めていたファルコは傍らに跪くと背中を優しく摩って。
「――……っ、は……」
大丈夫じゃないのは明白だったが、それでもようやく落ち着いた。ファルコの心配を余所にフォックスはふらりと立ち上がる。
トイレを流し、覚束ない足取りでゆっくりと歩きだして。
「お、おい」
「大丈夫だから」
フォックスは口を開く。
「……行こう」