第八章



……俺は。

「フォックス!」 

びくっと体が跳ねて同時に目を覚ました。呆然とした顔で息を弾ませる。

「ったく。ヒヤヒヤさせやがって」

隣から安堵した声が聞こえたのでそちらへ顔を向ける。そして目が合うとその男、ファルコは手を伸ばしてくしゃくしゃと乱雑に髪を撫でた。

「こっちは心配したんだ。十時から依頼が入ってるっつーのに八時を過ぎても部屋から出てこねえし。いざ入ってみればまだ寝てるわしかもうなされてるわ……」


……あれ?


「俺、ずっとこの部屋で寝てたのか?」

体を起こしながら訊ねると、ファルコは案の定きょとんとした顔で返した。

「当たり前だろうが」

……何だろう。

凄く、重要な何かを忘れているような気がする。

「ぼけっとしてねえでさっさと着替えろ」

呆れたファルコに促されるがままフォックスは布団を捲ると、ベッドの縁に座って寝巻きに手を掛けた。ぐるぐる、ぐるぐると疑問が頭を巡っている。


――気にしなくていいんじゃない?


「ああ……」

フォックスは無意識の内にぼそっと答えた。

「そうするよ」
 
 
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