第八章
声も出なかった。
次にフォックスが目にしたのはマスターの左目である。怪我が一向に治らないが故眼帯を使い覆い隠していた左目。それが、あろうことか――無くなっている。
瞼を開けばそこに納められているはずの眼球が無かったのだ。ぽっかりと開いた空洞のアイホールの中で広がる暗闇に先程の光景がまるでからかうように映り込む。
「……どうした。何を見ている」
当の本人はかくんと首を傾げるだけでそれほど問題にしてないらしい。
それだけにフォックスは思わず口にした。
「……狂ってる……」
マスターは相変わらず表情を変えない。
「こんなことをするなんて……どうかしてる……!」
左目を。左腕を。
夢じゃないなら一体ナニ?
「そもそも研究って」
「もう少しだ」
言いかけたところでマスターがふらりと一歩踏み出した。
「……もう少しで、弟のカラダが完成する。だがその為には覚醒した弟の魂を……俺ではない別の器に預けなければならないんだ」
――何を、言ってるんだ?
「分かるだろう? このままでは研究も儘ならない……」
赤い雫を左腕の切り口からぽたぽたと滴らせて。普段とは似ても似つかぬ不気味な笑みを浮かべる彼を。自分はただ、見つめるばかりで。
「協力して、くれるよな?」