第八章
「っ、」
フラッシュバックのように切断された左腕や鮮血の噴き出したその瞬間、項垂れるマスターの横顔が心臓の鼓動高らかに脳裏へと映し出される。ぐるぐると胃の中で行き場を失っているそれを外へ出さないように、片手で口を塞いで。
知らせなきゃ。夢じゃないのなら。
視線は全く外さないまま、震える足で後退を図る。部屋の中でマスターは青ざめた顔をして強烈な痛みに苦しみ悶えていたが。
……ふと。
その目が扉に向いた。
「ぁ」
彼にしてみれば初めて半開きであった扉に気付いた程度だったが、フォックスにとっては寧ろそれがいけなかった。蛇に見込まれた蛙のように。小さく声が洩れたかと思うと途端に足が硬直化、がくんと力が抜けてその場に尻を付いてしまった。
マスターは右手で口から布を取り払いつつ悟る。
「……見たんだろう?」
ぞっとするような冷たい声音だった。
靴音。ゆっくり近付いてくる。その対象がマスターであると知っていながら。今はただひたすらに恐怖でしかなくて。――嫌だ。来ないでくれ。
見ていない。
何も見ていないから。
「……なんだ」
だがそんな願いも虚しく扉は軋み、光が差して。
「お前、だったのか」