第七章
荷物をまとめるのは簡単だった。キャリーバックの中に、三日分の私服や下着を押し込んでいく。櫛や歯ブラシといった日用品は、実家に帰るのだから必要はない。そうするとつまりキャリーバックの中身はもう少し余裕があるはずなのだが、彼の場合、衣類の畳み方が雑なのだ。父親として、これは恥ずかしい。
「……その」
何故か後ろで立ったままその様子をじっと眺めていたフォックスが、申し訳なさそうに口を開いた。「ん?」とラディスは手を止めて振り返る。
「迷惑、だったよな」
彼の性格だから断れなかったんだ。優しいから。
リンクが背中を押してくれたのは此方の本心を読み取っていたからだ。妻子持ち、と聞いたらそりゃ気になる。自分だってまだ十八歳。青年期だ。
これがまたすぐには返さないのだからじわじわと不安を煽られる。
ほら、やっぱり。でも単純に迷ってるだけかもと余計な思考を巡らしながら前に向き直った男の後ろ頭を見つめて返答を待つ。
空気も読まず、すぐそこの廊下をどたどたと慌ただしく駆ける音が聞こえた。それも一人だけじゃない。皆、リンクから話を聞いてそれぞれ荷物をまとめる為に一度自分の部屋へと戻ってきたのだ。 フォックスは狐耳を動かし、扉を見遣る。
余談だが、二人はラディスの部屋にいたのである。
「……そんなことはないさ」
ラディスはようやく口を開いた。
「内心、ほっとしてる。本当は皆から離れたくなかったんだ」