第六章



依頼人のバーナード氏は何者なのか。

どうして自分たちに嘘をつく必要があったのだろう。思えば最初に見回り中の彼にあった時、曖昧な返しをされていた。あの時点で疑うべきだったのか。

そしてこの状況。クロガネとバーナード氏の後を追いかけていった先で、ドクドクロが順に待ち構えていた。彼らの言動は何か引っ掛かる。時間稼ぎの割にはあっさり突破を許すし、最後の一人に限っては重要な事柄も吐いていた。

まるでエンターテイメントだ、とは冗談で言ったつもりだったのだが。


これじゃ本当に――


「……!」

その可能性は十分に有り得る。

しかし残念なのはこうして考えているのは惜しくもラディスではなく、リンクだったという点だ。が、それこそ彼らの思惑通り、つまりは好都合……

「……最後の忠告です」

リンクはぽつりと口を開く。

「本当に助けるつもりですか」

ラディスの表情に影が、落ちる。

「彼は、謂わば莟(つぼみ)の状態です。ここで助けて何も起こらなかったとして、その先で開花した時、何もないとは保証できませんよ」


――どくん。


「俺たちの選択する全てが正義とは限らないんです。止むを得ず、でもこの手で人を殺めてきた。例えそれが政府によって許された行為だったとして、正義であると割り切れてきましたか? 貴方のことです、きっとそうではなかったはず」

……ああ。

分かっているつもりだった。なのに、知らないふりをしていた。


赤く血塗れた自分の手のひらを見つめて。

それが正義だなんて。
 
 
70/88ページ
スキ