第六章
――ここはホテル内にある警備室。
「えっ、いない?」
警備員の男は丸椅子に腰を下ろして名簿を手に、振り返った。
「バーナードという男は雇ってないよ。聞き間違いじゃないのかい」
ラディスは暫し呆気にとられた。
……依頼人は確かに警備員の男だったし、あの時鉢合わせた男だって此方の正体も事情も何もかも知っていた。なら、彼が依頼人で、イコール警備員ということは間違いないはずなのに。それともこのホテルの警備員じゃなかったとか?
「二日ほど前に警備員を他の部から一時的に借りたとか、そういう話は」
警備員の男は首を横に振る。
「うちは人手不足というわけではないからね。他の部の手を借りることは滅多にないよ。まあ、逆のパターンはあるけどね。……それより君たち」
ぎくりと肩が跳ねて、マルスが肘で小突く。
「十分です! 失礼しましたっ!」
一目散に、退散。
「ちょっ」
「本当に何でもないですからああ!」
警備室を飛び出してあっという間に背中が小さくなっていく様を、警備員の男は目を丸くして見つめて。――少し、残念そうに被っていた帽子を被り直した。
「依頼人はどうして嘘をついたんだろう……」
通路を走り、角を曲がった先で五人は息をついていた。
「此方の正体が分かっているのは依頼人以外に有り得ないし……」
「……偽者という可能性は」
そう呟いたマルスに全員が注目した。