第六章
その意志があれば、十分だ。
「分かったよ」
ラディスはそっと肩を解放して、代わりに頭を撫でた。その行為にあまり慣れてないゲーム&ウォッチは、片目を瞑って不思議そうに見上げて。
「俺が、残りの四人に事情を話す。えーと、四人というのは仲間のことで」
親指以外の指を立てながら説明をしてはみたものの。……うーん。あまり手応えがないな。子供の頃にちゃんと英語の勉強、しておくんだった。
「また明日、ここに来る。お迎えだ」
ラディスが小指を差し出すとそれだけはすぐに通じた。
……指切りか。嘘ついたら針千本、しかもそれを飲ますなんて。でもそれを当時考えついた子供たちにとっては、約束事は守れて当然という認識だったのだろう。
いや、それにしたって物騒なことに変わりはないが。……
「っとと、忘れるところだった」
気付けば雨は止んでいた。建物を出る直前になって、ラディスは思い出す。
「君のこと、ゲムヲって呼んでもいいかい?」
「……げむお?」
呼びにくかったことももちろんあるが。彼の名前は彼自身というよりは、彼の住むゲームの世界の名前を借りたようなものだった。ならばここいらで彼を示す名前というか、そんな呼び名があってもいいんじゃないかー、なんて。
「気に入らないか?」
訊ねると、彼はぶんぶんと首を横に振って、微笑。
「……そっか。じゃ、また明日」
ちゃんと勉強するんだぞー、と手を振り去っていくラディスに、ゲーム&ウォッチ改めゲムヲはその背中が見えなくなるまでしつこいくらいに手を振って。
あの時、どうして気付かなかったんだろう。
自分の後を密かに付けてきていた、影の存在に――