第六章
ゲーム&ウォッチはかくんと首を傾げた。
――助けることができなかった、その子の為に。
彼は、その子の憧れたヒーローという存在に強い憧れを抱いた。そのひたむきな想いこそがそれまでゲームの中のキャラクターでしかなかった彼をこの世界に舞い込ませてしまったのだ。……この町があった頃、そこは英語が主流だったと訊く。
だから英語しか喋ることが出来なかったのだろう。それが何百年と昔の話であったとしてもどうやらそのゲーム機に日本語は組み込まれてないみたいだし、これまで口を開かなかったのは単に通じてなかっただけのものと窺える。
……聞くだけでは学べない言葉もあっただろう。
きっと、この町の子供たちと遊びながら覚えたことだって。しかし戦争が起こっても戦う術を知らなかったゲーム&ウォッチは、己が愛し、同じように愛してくれた町をその手で守ることが出来なかった。
最後まで愛してくれたのに。その身を無理矢理ゲームの中の世界へと帰して――
変わり果ててしまった町を目に彼は悲しみに暮れただろう。
そして、思い出す。あの子が憧れたヒーローの存在。弱い者を助ける強き味方。
――自分がヒーローになれたなら。
「らです?」
ラディスはあはは、と笑ってゲーム&ウォッチの頭を撫でる。
やっぱり勘違いだったんだ。その後ラグナの町に辿り着いた彼は、あのヒーローショーを見た。ヒーローが戦う傍で悪事を働く輩を見つけ、ただ言葉もなく淡々と、ヒーローの一員として子供たちを助けていた。それだけだったのに。
皮肉なことに彼の影を操る能力は、子供を探しに来た人々によって黒魔術と認識され、誤解を招いたのだ。そして死神と名を付けられてしまった。
それが真実。彼はただ純粋無垢な正義だったんだ――