第六章
いや、それにしても。
僕に言わせてみれば発音がなっていない。これじゃ日本語で英語を真似ているようなものじゃないか。死神だってほら、首を傾げている。
「うぅ……やっぱり駄目かー……」
とほほ、と肩を落とす彼は恐らく小学校時代辺りから余程英語が苦手だったものかと見受けられる。やれやれといった具合にマルスが見つめていると、ラディスはちらりと視線を送ってきた。無論、助けてくださいとでも言いたげな目で。
「……ラディス。死神は死神なんだ。言葉が通じないのは当たり前じゃないか」
まさしく正論である。
外見はともかく、この子が普通の人間と異なることは確か。犬の言葉が犬にしか通じないように、死神に人間の言葉が、例え日本語だろうが英語だろうが通じるはずがないとマルスは言いたいのだ。しかしラディスは首を横に振ってみせる。
「さっき、ストップと言ったらこの子は動きを止めた」
「っまさかそれだけの理由で」
「悪意があるのなら言葉が通じたところで動きを止めはしない」
沈黙。マルスは少女を見つめる。
「……なんて話しかければいいんだい」
ラディスは安心したように顔を綻ばせた。
「名前と、出生地。今回の件について詳しい目的と、それから」
「ち、ちょっと待ってくれ。そんなあっさり吐くわけがないじゃないか」
言った後で気付いた。……ああ、この男。いや、何となく分かってはいたさ。
戦士として有るまじき行為でもある。まさかこの死神を初めから。
……敵と見做していなかった、なんて。