第六章



崩れかかった建物の中を抜けて、大きな瓦礫を右に曲がる――そこでラディスは立ち止まった。ぱっと腕を解放されてしまったので、マルスは両膝に手を付き息を弾ませながら疑問符。少し、整ってきたところで辺りを見回す。

「まさか、見失ったのかい?」

いやそんなはずは。……だがしかしそこに少女の姿はなく。確かに、あの瓦礫を右に曲がっていったはずなのだが。また、逃げられてしまったということか……

「うわあっ!?」

と、ラディスが声を上げたのはその直後のことである。

飛び退きはしなかったが。……なんと、少女はいつの間にかラディスの隣に立って彼の服の裾を摘まんではくいと引き、じっと見上げていたのである。

「ラディス! そのまま、」
「ま、待ってくれ!」

マルスが構えを取ったところでラディスは手を突き出し静止を促した。

「何を言ってるんだラディス! そいつは今回の」
「分かってる! けど、話をさせてくれ!」

そんなやり取りを交わしても尚、少女は逃げなかった。

マルスは納得がいかない様子だったが、小さく息を吐き出して。構えを解いたことを確認すると、ラディスは少女の頭へと手を伸ばした。初めはやはり遠慮がちに頭の天辺に指先で触れて、それでも逃げないことを確認すると手のひらを乗せた。

ゆっくりと、優しい手つきで撫でながら。彼は、少女の前に跪く。

「ま、まいねーむ、いず、ラディス」


……え?


「わ……わっちゃーねーむ……?」

え、英語……?
 
 
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